因果。私ははかなくも

因果。私は、はかなくもばかげたこの虚栄の市を愛する。

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私は生涯、
この虚栄の市に住み、
死ぬるまでさまざまの甲斐なき努力しつづけて行こうと思う。

虚栄の子のそのような想念をうつらうつらまとめてみているうちに、
私は素晴らしい仲間を見つけた。

先日は、
実に、
だらしない手紙を差し上げ、
まことに失礼いたしました。

あの夜、
あの手紙を書き上げて、
そのまま翌る朝まで机の上に載せて置いたならば、
或いは、
心が臆して来て、
出せなくなるのではないかと思い、
深夜、
あの手紙を持って野道を三丁ほど、
煙草屋の前のポストまで行って来ましたが、
ひどく明るい月夜で、
雲が、
食べられるお菓子の綿のように白くふんわり空に浮いていて、
深夜でもやっぱり白雲は浮いて、
ゆるやかに流れているのだという事をはじめて発見し、
けれどもこんな甘い発見に胸を躍らせるのも、
もうこの後はあるまい、
今夜が最後だ、
最後だ、
最後だと、
一歩一歩、
最後だという言葉ばかりを胸の中で呟きつづけて家へ帰りました。

ニキビのち蛙という単行本に、
ひょいと顔を出して来たのである。

鴎外全集の編纂者も、
ずいぶん尋ねまわられた様子であるが、
どうしても分らない。

御垂教を得れば幸甚である。

と巻末に附記して在る。

私が、
それを知っていると面白いのであるが、
知る筈がない。

私は、
まんまと、
かつがれたわけであるが、
けれども私には、
この友人の無邪気な冗談を心から笑う事は出来なかった。

何だか、
ひやりとしたのである。

もう一尺、
高かったなら!実に危いところだと思ったのである。

私は高等学校一年生の時に、
早くもお洒落の無常を察して、
以後は、
やぶれかぶれで、
あり合せのものを選択せずに身にまとい、
普通の服装のつもりで歩いていたのであるが、
何かと友人たちの批評の対象になり、
それ故、
臆して次第にまた、
ひそかに服装にこだわるように、
なってしまったようである。